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起承転結

…… ヒキコモリ暦は二年目に突入し、彼は思い悩んでいた。
高校卒業後、勢いに任せて上京した彼だったが、父から聞かされた母の入院にショックを隠しきれず、そこから彼がヒキコモリへと堕ちるまでは早かった。
それから半年後、母は呆気なく他界した。
実家に帰る気にもなれず、働く気力もない。一日一日をただやり過ごす彼だったが、貯金残高はそれを許さない。
そんな彼が、ネットサーフィンをするうちに知った「アフィリエイト」というものに興味を抱いた。
早速詳細を調べ、ホームページ製作に取り掛かるが、プログラム言語などの知識ゼロの彼にそれが出来る筈もない。
気を晴らそうと、ネットで購入した合法ドラッグを飲み込むと、揺れる視界は暗転し、彼を別世界へと誘う。
彼は自らのそう長くない人生を振り返り、ずぶずぶ暗い思考へと沈んでいく。
母が死んだのは自分が与えた心労によるものだ。彼が早々に地元を出たのも、高校の同級生が自殺したことに由来していた。
幼い日、共に過ごした幼馴染も不慮の事故で死んでしまった。
自分は疫病神だ。そう結論を出した時、グラグラと崩壊する世界で彼は声を聞いた気がした。
「     」、と。

……
彼が再び意識を取り戻した時、そこは西陽の差し込む不思議な空間だった。
どうやら室内のようだったが、壁や床はプラスチックのような素材でできており、夕陽を反射して鈍い光を放っていた。
室内は高い位置に窓らしきものがある以外、まったくの正方形で、彼はサイコロの内部はこんな感じかと想像した。
辺りはしんと静まり返っており、生物の気配は一切ない。
背筋に薄ら寒いものを感じつつも、彼は冷静な思考で「これはドラッグによってもたらされた幻覚だ」と判断を下す。「トリップ」と呼ばれるそれにあまり精通していない彼だが、「トリップ」というからには旅行なのだろう、と。
その判断の下、余り動くべきではないとする彼の元に、ようやく人が訪れたのはそれから数分後の事だ。
ドアもなかった筈の壁の一角をすり抜けて現れた彼女は、名を(   )と名乗り、彼の身に起こった事をざっと説明した。
この世界は「   」と呼ばれている事。自分はプログラム言語と呼ばれる種族で、この世界には数人のプログラム言語しかいない事。彼女らもこの世界の住人ではなく、つい最近訪れたのだという事。「人間」という種族に心当たりがない事。
彼女らが元の世界に戻る為に、協力して欲しいという事。
プログラム言語と呼ばれる彼女たちにとって、世界間の移動は造作もないことだが、プログラムを発動するためのキーが必要で、その準備に手間取っていた所に彼が現れたのだという。
彼は自分を元の世界に戻してもらう事と引き換えに、「キー」の役目を引き受けた。
ちょうど話が一段落すると室内には数名のプログラム言語たちが入ってきた。
多様多種な容姿を持つ彼女らと簡単な自己紹介を交わし、彼は部屋の外を案内してもらう事になった。
部屋の、壁だと思っていたものを抜け外に出ると、そこには彼の住む世界と殆ど変わらない景色が広がっていた。
とはいえ、東京に住んでいた彼から見ると随分自然豊かで、彼は少しだけ実家を思い出す。
ただ、その景色のほとんどが見かけだけのもので、実際に歩いてみると、途中で目に見えない壁に阻まれる形となり、この世界が以外と狭い事を知った。
彼女らは彼より二日早くこの世界に迷い込んだようで、彼女らの世界では割と良くある事らしかった。
彼の登場により、作業効率をあげた彼女らが元の世界に戻るためのプログラムを完成させるのは一週間程先になるそうだ。
それから数日が過ぎ、彼はプログラム言語の一人に秘密を明かされる。
彼女らが今作っているのは、彼女らが元の世界に戻る為のプログラムではなく、彼女らの元の世界を破壊するプログラムだと。
彼女らの住んでいた世界では、今まさに戦争が行われていた。彼女らは戦争によって大切な人を失い、生きる希望をなくした。
そして、プログラム言語であり、技術者たる彼女らは仮想世界を作り出し、自らの命と引き換えに世界もろとも戦争を終わらせるつもりなのだ。
「この話をしたことは、まだ誰にも明かすな」と釘を刺し、話は終わった。
秘密を明かされ、困惑する主人公。
プログラム言語たる彼女らの中にはまだ幼い子供もいる。
彼は彼女らを救う術を模索し始めた。

……
プログラム完成予定日まで残すところあと二日となった。
しかし、原因不明のバグの発生により、経過は思わしくないようだ。バグ、と言われてもプログラムなどの知識に欠ける彼には及びもつかない。
ただ、それは彼女たちも同じようで原因は一切不明。何故、それによって作業が遅れるかさえわからないのが現状だという。
完成を手放しで喜べない彼は複雑な心境で彼女らを見つめていた。
戦争、と呼ばれる壮大すぎるテーマに彼女たちの決意。まだ会って日も浅く、ただ迷い込んだ世界で偶然であっただけの自分が何をすべきか、彼はそれを考えていたが、一向に答えが出る気配はなかった。
ある日、バグ、と呼ばれたそれは、ついに彼の前に姿を現す。
ある夜、彼が一人物思いに更けていると、背後から声を掛けられた。振り向くとそこにはプログラム言語の姿があり彼は安堵するが、様子が可笑しい。
どこか陰鬱とした雰囲気を放ち、伏し目がちに吐き出した言葉は彼の内面を見透かしたものだった。
「ただ迷い込んだだけの君に彼女らを止める資格があるのかな?」
「そういえば君、母親をなくしたそうだね。可哀想に」
「放って置けば良いよ。君は元の世界に帰れば、もう無関係なんだから」
「事故として処理されたそうだけど、本当にそうなの?」
「自殺だってさ。君、毎日一緒にいたのに何もしなかったんだね」
そう一言だけ残し、後にはいつも通りのプログラム言語が残る。
どうやら今しがたの記憶はないようだ。
それからもそういった現象は彼の身の回りで起こり続け、当の彼女らに一切の自覚はなかった。
実の所、彼にはある程度の推測はついていた。
かと言って、対策は浮かばない。
何も出来ないまま、夜は明けていく。
翌日、彼は「彼女らの真意」を既に知っている事を皆に明かす。
それぞれの反応はあったが、「邪魔立ては許さない」というのが総意のようだった。
彼は、自分の登場によって彼女らの死期を早めた事を嘆いたが、自分を責めるなと逆に慰められるだけだった。
計画は予定通り明日決行。バグの正体は依然掴めぬままだが、変更はないそうだ。
彼女らと過ごす最後の夜はゆっくりと更けていく。

……
この世界が彼の弱さに由縁する創造の世界である事は、彼にも薄々わかっていた。
ただ、彼女らがそうであるのかはわからない。彼の生み出したこの世界が、また誰かが生み出した他の世界と繋がったのかもしれない。
この世界さえ理論的には可笑しいのだから、今更理屈など些細なものだった。
少なくとも、彼の目に映る彼女らには決意があり、覚悟があり、計画がある。
そして、バグは存在する。彼の「弱さ」の象徴として、この世界で、違う世界の彼女らを妨害する。
彼はそれを、止めなければならなかった。
方法も知っていた。ただ、強くあれば良いだけだ。確証はないが、彼は確信していた。
彼女らの計画の実行は本日、午後八時。彼はその強さを以って、計画を成功させるため協力する事を再び誓った。
計画実行間際、強くあろうとする彼ではあったが、やはりそれでバグが消滅するという保障はない。
成功が保証されぬまま、計画は実行される。プログラム言語たちを見送り、彼はそのキーを押した。
世界は再び暗転し、真っ暗な視界を揺らす。
何か声が聞こえた気もしたが、聞き取ることはできなかった。

プロローグ的な何か……
彼が目を覚ますと、そこは見慣れた自室。
やはり、パソコンの前で眠っていたようだったが、彼にはここではない世界での記憶がはっきりと残っていた。
彼女らの計画はうまくいったのだろうか、と一瞬思ったが、何故だか成功しない筈がないような気がしたので深くは考えなかった。
曖昧でも強くあろうと決意した彼は帰省し、亡くしてきた人たちの墓前に深々と頭を下げた。
幼馴染の家を訪ねると、幼い日は自分の親のように思えていた筈の人たちの姿があった。
深く言及される事もなく「久しぶり」と中へと通され、仏壇の前に座る。遺影の中にはあの日と変わらない彼女の顔があった。
あの日、氾濫した川の濁流に飲まれ、ゆっくりと消えていった彼女の顔があった。
彼は、懺悔した。人を呼びに行くなどと、自分は体よく逃げたのだと、ひたすらに詫びた。
責められる事はなく、やはり逆に励まされる結果となった。去り際掛けられた「また遊びにおいで」という言葉が、彼にはただ優しかった。
あくる日、同級生が飛び降りた母校を訪ねた。
屋上へとあがり、友人が最後に過ごしたであろう場所に立つ。
都合よく霊が現れたりはしない。そんなものが存在するかもわからない。それでも彼は虚空に向け言葉を紡いだ。
下らない思い出話であったり、自分の現状であったり、不思議な世界の事であったり、ただ思いつく限りの事を話した。
やはり返事はない。彼が別れの言葉を告げ、ドアを開くと、そこには制服に身を包んだ少女の姿があった。
同級生によく似ており、彼は一瞬幽霊かと疑ったほどだが、恐らくは他人の空似だろう。
軽く会釈し立ち去ろうとする彼を、その少女は呼んだ。
少女は自らを自殺した同級生の妹だと名乗り、「姉はあなたを恨んでなどいません」とだけ告げた。
短く礼をいい、彼は校舎を後にした。
実家では、父とも話をした。
母は、最期まで自分の名を呼んでいたそうだ。
母からだ、と差し出された手紙には、やはり自分の事ばかりが書かれていた。
ご飯を食べているか、元気でやっているのか、仕事は順調か、そんな普通の事ばかり書かれて、彼は自分がどれほど心配をかけていたのかを知った。
父との話し合いの結果、彼は家業である酒屋を継ぐことにした。
東京に戻り、引越しの準備などを片付け、三年間過ごした部屋を見渡す。
自分の部屋とは思えない程に小奇麗なワンルームは、何故だが感慨深い。
最後に、と放置していたパソコンに目をやる。
その時、それは自動的に起動した。
奇妙な確信に胸を躍らせ、彼は再び、その前に腰を降ろした。
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